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きりんうるしでつながる共生社会

自給率わずか5%の漆。国産漆の増産が課題となる中、「きりんうるしプロジェクト」が注目を集めている。今なぜ漆なのか。プロジェクトを立ち上げた小林真弓さんに、その背景や、地域への思い、今後の抱負などについてお話をうかがった。

小林 真弓
          
こばやし・まゆみ:1983年、南津軽郡大鰐町生まれ。弘前工業高校インテリア科卒業後、保育園勤務を経て、2013年8月、平川市に株式会社きりんを設立し、就労継続支援B型事業所きりんの里、雑貨リサイクルショップきりんを運営。2018年10月、現事業所に移転。イラストレーターこばまゆとしても活躍中。

保育士、イラストレーター、そして福祉の世界へ

――「きりんの里」立ち上げまでの経緯は?

弘前工業高校を卒業後、保育士資格を取得し、保育園と児童センターに勤務しました。元々、趣味でイラストを描いていました。勤務時間に余裕ができて、自分の絵を外に出してみようと思い、小さなお祭りで似顔絵を描いたのが、イラストレーターとしての始まりです。その後、個展を開いたり、コラムを書いたり、スポンサーがついたりと、黄金期が存在したんですね(笑)。

でも、障がい者施設をやってみたい思いを忘れられず、就労継続支援B型事業所「きりんの里」を立ち上げました。子供が5歳で手のかかる時期でした。子供が生まれてからの5年間は、イラストレーターで食いつなぎ、29歳で「きりんの里」の代表になりました。今は事務局長です。

――名前の由来を教えてください

きりんが好きなんです。そして、このイラストのきりんは首が短いでしょう。働きたくても働けないことってありますよね。このイラストのように、のんびりやっていくうちに、意欲が出てきて、みんなで成長して、短い首を長くしていこうね、という願いを込めて、きりんにしました。

障がいを持つ方とともに歩む「きりんの里」

――事業の内容と特徴を教えてください

就業継続支援B型事業所(※1)として、障がいや難病の方に、働く機会や活動の場を提供しています。作業を通じて得た資金を、利用者に工賃としてすべて還元する仕組みです。近くの会社から、箱折りやラベル貼り、フルーツキャップ作りなどの作業を請け負っています。独自の取り組みとしては、リサイクルショップを併設して品出しを行うほか、利用者が作った布ハンガーなどのグッズを販売しています。

近年は、NHK青森放送局の番組内コーナー「お国ことばで川柳」の作画を担当しています。自分で絵を描くだけではなく、利用者にベタ塗りや色づけを手伝ってもらっています。みなさんも自分の描いたものがテレビに映るのは面白いようです。なかには自分で消しゴムはんこをデザインして作画する方もいます。それぞれの才能を生かせて、励みになりますし、収入源にもなっていて助かっています。

設立当初、事業所は別な場所にありました。コンビニだった建物を利用して、何とかやってきました。利用者がたくさん来てくれるようになったのですが、床は割れるし、トイレは一ヵ所しかなく、バックヤードも寒い。それで、頑張ってお金を貯めて、現在の場所に移転しました。すると、問合せがたくさん来て、利用者も増えたのですが、その矢先にコロナが来てしまいました。

それまでは、外部から請け負う作業に頼ることが多かったので、コロナ禍で観光客が激減し、外出機会も減って、お土産品が売れなくなり、作業自体が減ってしまいました。さらに、物流が滞って資材も手に入らなくなりました。そのような中で、弘前の小林紙工の社長さんが、あの手この手で作業を提供してくださり、本当にありがたい思いです。その厚意に報いるためにも、自分たちで何とかしなければ、という思いが沸き上がってきました。

※1:就労継続支援B型事業所:障がいのある方が、一般企業に就職することに対して不安があったり、就職することが困難な場合に、雇用契約を結ばずに生産活動などの就労訓練を行うことができる事業所。

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