Région

きりんうるしでつながる共生社会

挑戦!!きりんうるしプロジェクト

――きりんうるしへの挑戦のきっかけは?

動き始めたのは2021年の秋です。室内での作業ができないなら、外の作業、たとえば農作業なら自分たちでできるはずだと思いました。利用者に作業を提供するからには、責任を持って工賃を払う必要があります。だから、エビデンスのある、しかもオリジナルのことをしたいと考えました。

そこで、中南地域県民局の「TSUGARUうるし」苗木生産実践講習会に参加したところ、国産漆が不足していることを知りました。文化庁の方針で、国宝・重文の保存修理には原則として国産漆を使用することになっていますが、自給率は5%に過ぎません。また、苗木を生産している人は県内にはまだいないので、チャンスだと確信しました。そして、地元には、国内外に誇る伝統工芸品の津軽塗があります。幸いにも、国の「農山漁村振興交付金」の採択を受けることができ、「きりんうるしプロジェクト」がスタートしました。

目標は、津軽塗に使用されるような漆を生産すること。そして、障がいを持つ方が社会貢献できる場所を広げていき、工賃をアップすること。また、地域の皆さんと交流を増やし、社会とつながっていくことです。

――苗木生産への挑戦がスタートしました

まず、漆の産地である二戸に向かい、文化財の修復などを手掛ける小西美術工藝社(東京都)二戸支社長の福田達胤氏を講師にお招きして、直接指導を受けました。同支社は、国宝・重文の保存修理に使う漆を一貫生産しています。

そして、すぐに種を取り寄せました。津軽塗伝統工芸士会の今年人先生に提供していただいた1万2000個の種をまきました。すると、2000個も芽を出したんですよ! ただ、発芽はしたけれども、間引きしなければならないものもあり、最終的に1300本の苗木をポットに移植しました。

ところが、私たちには苗木を育てた経験がありません。幸いにも事業所がある尾上地区は、造園業が盛んな土地柄です。ご縁があって、大昭造園(平川市)の小田桐睦夫専務から風土に合った苗木の育て方や、冬の管理方法をご指導いただいています。また、利用者のことをよく理解し、温かく励ましてくださるんですよ。

現在、大昭造園のハウスで、1300本の漆の苗木を管理していますが、うち6割が今春出荷できる状態まで育っています。さらに、小山内組(平川市)をはじめとする地元企業に植林していただくことが決定しています。また小山内組の社員の方々とは、中南地域県民局提供の苗木を使い、植栽の勉強をしました。

大昭造園さんからは盛美園の管理業務を任せていただいています。3月下旬に雪囲いを外して、ゴミの片づけもします。外で作業をするとみんな明るくなりますよね。特に男性陣、こんなに体力があるんだ!と嬉しくなります。それで、時給を50円上げました! B型は工賃が低いのですが、少しでも頑張りたいと思っています。

色々なご縁があって今に至るのですが、最近、今年人先生のご子息の立さんからお声がけをいただき、津軽漆連に入会しました。ここには、津軽塗の若手職人や木地師など漆に係わる人が集まっています。これまでは苗木を育てるだけでしたが、漆を使う側の人の気持ちが分かるようになりました。ここで私たちと職人の方々が漆を通して交流を深め、たくさんのご縁ができたことで世界が広がりました。感謝しています。また、ここで漆の種の取り方を指導していただき、後の取り組みにつながっています。

――漆の副産物の利用にも取り組んでいますね

第一弾は漆栞です。間引きした漆の苗木の葉っぱを見ると、形が複雑でかわいいんですよ。紅葉までしたのに、ダメになって間引いたものもあります。どうしても捨てられず、押し花にして取っておきました。何かに使えないものかと考えていたら、栞のアイデアが浮かびました。

栞の柄は、手板という津軽塗のデザインの元になるもので、今先生からご提供いただきました。これを津軽漆連主催のフェアで販売したところ、2枚1組で40組も売れました。何より自分たちも、できるんだ!と自信がつきました。パッケージまで自分たちでするのも楽しんでいます。この商品はJR大鰐温泉駅前の「Craft&Cafe Raito(ライト)」で販売しています。

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