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海の恵みと生きる 養殖産業革新

――御社の強みを教えてください

まず、弊社グループの強みは生産、加工ならびに販売まで垂直統合のバリューチェーン体制が整っていることです。そのため、お客様の情報が生産(養殖)現場までリアルタイムに反映され、素早く生産改善に取り組むことができます。このように他社より先駆けた体制が弊社グループの強みとなっています。そのうえで、弊社の強みは常に新しい挑戦に立ち向かえる人材にあると思います。

確かに定置網を設計・設置できるノウハウを持つ人材や漁船の操縦や重機を扱える人材、財務関係のスキルを持った人材など多様な人材が集まってくれています。しかし、集まるだけでは強みではありません。一人ひとりがサーモン養殖という目標へ向かって真摯に取り組み、その意識が有機的につながっている――この人材こそが弊社の最大の強みであり力となっています。

まだまだ人手不足ではありますが、少しずつ若い力も入ってきています。中には18歳や19歳の社員もおり、平均年齢は33~34歳です。社員の家族が毎年のように増えてきて、ちょっとしたベビーラッシュになっています。子供が生まれたと聞くと責任を感じますが、「頑張るぞ‼」という気持ちにさせてくれます。若い力は周りにもパワーを与えてくれ、弊社の貴重な原動力となっています

繰り返しになりますが、私たちは深浦町と今別町の中間養殖場・海面養殖場において、サーモントラウトのふ化から成魚までの生産と加工・販売も含めて自社での一貫した管理体制を持っていることが強みです。一貫して生産することにより品質の維持・管理が自社で可能となります。

また、販売も行うことでお客さまの評判などの情報を直接聞くことができ、タイムリーにお客さまの声を生産に活かすことができるのです。消費者のニーズの変化も早く、多様化している今だからこそお客さまの声は重要になってきています。お客さまのニーズに応え、より多くの方々に味わってもらえるサーモンを育てていきたいです

――御社のサーモンはどこで食べられますか?

都内では、魚力(水産物の小売・卸売などを手掛ける企業)様が、試験養殖の段階の最初から扱ってくださっています。2018年から、生で出荷できる4~6月には、スシロー様でも「青森サーモン」の名前でメニューに出していただきました。イオン様でもASC認証(注)のサーモンとして販売いただいています。その他、全国各地に「青森サーモン」を出荷しています。

注:水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理運営する養殖に関する国際認証制度で、自然環境の汚染や資源の過剰利用の防止に加え、労働者や地域住民との誠実な関係構築が求められる。



持続可能な漁場環境を維持し養殖業界発展の一助となる

――今後の展望は?

昨年度の水揚げは1,600tでした。今期は、8月の災害影響で昨年度より減少し1,400tを見込んでいます。中長期的な目標としては、3年後には3,000t。10年後には1万tを達成したいと考えています。国内養殖サーモン(淡水・海水合わせて)の生産量は約2.5万tあり、弊社が仮に1万tを生産すると、約3割を占める規模になります。

この目標を達成するのは、とても困難で茨の道であろうと理解しています。ですが、世界に目を向けると世界最大のサーモン養殖業者は、年間40万t以上で、15位の会社でも年間4万tです。大規模化の成功事例があるからこそ、弊社にも可能性はあると思っています。

大規模養殖を行ううえで一番重要なのが、持続可能な漁場環境の維持です。魚を飼えば排泄物もでますし、残餌がでることもあります。残餌は流出すると環境に影響を与えます。弊社の今別・三厩海面養殖場は、日本で初めてASCサケ基準の認証を取得し、外部機関からの評価を受けながら漁場環境の維持に努めています。例えば、養殖生簀に魚を入れる前後に底質調査や生態調査など漁場環境を調査して海域の環境が変わっていないかを確認しています。環境に配慮し、拡大をしていくことが大事だと考えています。

現在、養殖事業の自動化・IT化に取り組んでいます。昨年秋に海面養殖で多くの生け簀に餌を同時に供給できるバージ船を導入しました。インターネット上のシステムで管理でき、離れた場所から給餌の管理ができる仕組みです。これはまず手始めで、今後はITを利用してサーモン養殖全体を一元管理、見える化していくことに取り組んでいきたいと考えています。このように生産性を向上させ、さらなる好循環を作ることは、弊社のさらなる成長とサーモン養殖事業に係わる地域の皆様へ恩返しになると考えています。

――そのモチベーションはどこから?

おこがましいですが、「日本の水産業を元気にしたい」という思いが原動力となっています。

世界の養殖事情と比較して、日本の養殖業は発展の伸びしろがあると捉えています。弊社は、世界の養殖の技術をいち早く導入して、環境に配慮した大規模サーモン養殖産業を実現させていきたいと思っています。この実現によって日本でも大規模養殖は可能であるという事例を示すことで、新たに取り組む人が増えていき、水産業の発展につながっていくと信じています。日々、四苦八苦しながらなんとか前に進んでいる状態で生意気だといわれると思いますが、志は大きく持っています。

――青森県の印象は?

青森県の各地を回り、素晴らしい自然を見てきました。養殖業は地域の自然の力を活用させてもらって成り立つ事業です。そのような視点に立つと青森県は有効的に活用できる自然の力はまだまだある印象を持っています。謙虚な姿勢を忘れずに豊かな自然の力を借りて、サーモン養殖を青森県のホタテ産業のように育て青森経済に貢献していきたいです。

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取材を終えて

筆者は、事業の立ち上げから取引先の担当として協力させてもらい、鈴木氏の努力と苦労を見てきた。岡村社長のもと、鈴木氏を中心とした少数精鋭によるゼロからの事業スタートであった。大規模かつ近代的な生食用サーモン養殖事業は国内初の試みである。発眼卵の仕入れから養殖場の確保・建設、機械設備の導入など、前例がなく全てが手探りだった。

事業規模の大きさや地域の方々の期待など、計り知れないプレッシャーがあっただろう。しかし、鈴木氏は、それを一切見せず「運がとてもよかった」、「みなさんの協力があってここまでこれた」と胸を張る。

鈴木氏のこの熱意と努力に周りが引きよせられて、共感するのだと思う。そして運を引き寄せているのだと思う。何もしない人に運はこないし、きたとしても気付きもしない。運は自ら動き努力した人だけがつかみ取るもので、鈴木氏はそれをまさに体現していると今回の取材を通して改めて感じた。サーモン養殖の話をするときの鈴木氏の子供のような目がとても印象的でその熱量に筆者もまた引き寄せられた。

青森県発の「青森サーモン」を世界中の人たちに届け、もっともっと多くの人たちを笑顔にしてくれることだろう。

(取材・編集 早狩竜弥)

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